研究職として働く中で様々な分野にふれることになります。”聞いたことはあるけど理解できていない” ”なんのことかわかっていない”といったことを、勉強用としてブログにまとめていくことにしました。その内容を同じ境遇の人にも共有できたらと思います。
同じ会社のなかでも、学生時代の専攻などバックグラウンドはさまざまです。議論のなかで、自分の触れてこなかった分野の話には、まったくついていけないなんてこともあります。。私はそんな時、知ったかぶりでごまかして、あとでこっそり調べて理解します。今回は解析でのレイノルズ数の用い方の基本的なとこをまとめることとしました。
目次
レイノルズ数とは?
レイノルズ数 (Re) は、流体力学における重要な無次元数の一つです。主に流体の流れの性質を判断するために使われ、流れが「層流」か「乱流」かを区別する指標として機能します。
レイノルズ数の公式
レイノルズ数は、以下の公式で計算されます:

- ρ は流体の密度 (kg/m³)
- u は流速 (m/s)
- L は代表長さ (例えばパイプの直径、m)
- μ は動粘性係数 (Pa・s)

層流と乱流の境界
レイノルズ数がある一定の値を超えると、流れの性質が「層流」から「乱流」へと移行します。
- 層流 (Laminar Flow): レイノルズ数が低いとき、流れは滑らかで層状に流れます。この場合、Re < 2,000。
- 乱流 (Turbulent Flow): レイノルズ数が高くなると、流体は不規則な乱れを伴って流れます。Re > 4,000が目安です。
- 過渡流: Reが2,000~4,000の範囲では、流れは不安定で層流と乱流が混在します。
レイノルズ数が示すもの
レイノルズ数は、流体の慣性力と粘性力の比率を表しています。大きいほど慣性力が強く、小さいほど粘性力が支配的になります。
- 低いレイノルズ数: 粘性力が支配し、流体が滑らかに流れやすい。 (例:血液の流れや油圧システム)
- 高いレイノルズ数: 慣性力が支配し、流れが乱れやすくなる。 (例:航空機の翼周りの空気の流れや高速で流れる川)
レイノルズ数の応用例
パイプ内の流れ
工業プロセスや給水システムでは、パイプ内を流れる流体のレイノルズ数を知ることで、摩擦損失や流量を正確に予測することができます。層流では損失が少ないですが、乱流が発生すると摩擦が増加します。
航空力学
航空機の設計では、翼に沿って空気が層流で流れるか乱流で流れるかが飛行効率に大きく影響します。乱流を抑えるために、翼形状を工夫することで燃費向上や飛行の安定性が図られています。
医療分野
血管内の血流もレイノルズ数でモデル化できます。血流が乱流になると、動脈硬化などの病状が悪化するリスクが高まることが研究されています。
実践 (摩擦抵抗への応用)
では、実際にレイノルズ数を用いてどのような評価が行えるのでしょう。イメージしやすい乗り物の抵抗値(摩擦抵抗値)の求めかたを考えてみましょう。
レイノルズ数を用いて摩擦抵抗の大きさを表すためには、一般的に摩擦抵抗係数 (friction drag coefficient) という指標が使われます。この係数は、流体が物体の表面を通過する際に生じる摩擦抵抗力を評価するために重要な役割を果たします。特に、飛行機や船などの乗り物の空気抵抗や水の抵抗を予測するために、レイノルズ数を基に摩擦抵抗を求める手法がよく使われます。
摩擦抵抗係数とは?
摩擦抵抗係数は、物体が流体中を移動するとき、その表面に対する摩擦抵抗の大きさを示す無次元数です。物体の形状や流れの性質によって異なりますが、特に表面に沿った流体の動き(境界層)に関連して摩擦抵抗が発生します。
摩擦抵抗係数 Cf は、以下の式で表されます

ここで、
- Fd は摩擦抵抗力(N)
- ρは流体の密度(kg/m³)
- v は流体の速度(m/s)
- A は物体の表面積(m²)
この式は、物体に作用する摩擦抵抗力が動的圧力と物体の表面積にどれだけ比例するかを表しています。抵抗が大きいほど Cf が大きくなります。
レイノルズ数と摩擦抵抗の関係
摩擦抵抗係数は、レイノルズ数によって変化します。層流と乱流で摩擦抵抗の大きさが異なるため、物体の周りの流れが層流か乱流かによって、摩擦抵抗係数の計算方法が変わります。
層流の場合
層流では、流体の粘性力が支配的で、摩擦抵抗は比較的小さいです。層流での摩擦抵抗係数は、次の経験式で近似されます。

この式から分かるように、レイノルズ数が大きくなると、摩擦抵抗係数は小さくなります。つまり、流速が速くなるほど摩擦抵抗が減少しますが、これは層流が保たれている場合に限ります。
乱流の場合
乱流になると、流体の流れが乱れ、摩擦抵抗は層流よりも大きくなります。乱流での摩擦抵抗係数は、次のように表されます。

この式は、乱流領域での摩擦抵抗係数を予測するための経験式であり、レイノルズ数が増加すると抵抗も増えることを示しています。特に、高速で移動する飛行機や船の表面では乱流が支配的となり、この式が適用されます。
飛行機や船の摩擦抵抗の計算
飛行機や船のような移動体に作用する摩擦抵抗は、その形状とレイノルズ数によって異なります。ここで、摩擦抵抗係数を用いて飛行機や船の抵抗を求める流れを見てみましょう。
飛行機の摩擦抵抗
飛行機の翼や胴体に沿って流れる空気の摩擦抵抗を求めるために、レイノルズ数と摩擦抵抗係数を使います。飛行機の表面に沿った空気の流れが、層流か乱流かによって摩擦抵抗が異なるため、流れのレイノルズ数を基に摩擦抵抗係数を計算します。
飛行機の総摩擦抵抗 Fdは、以下の式で計算されます:

ここでのA は飛行機の表面積です。例えば、飛行機が高速で飛行するとき、レイノルズ数が高くなり、乱流が支配的になるため、乱流の摩擦抵抗係数を使って抵抗を求めます。
船の摩擦抵抗
船の場合も同様に、船体に沿った水の流れが摩擦抵抗を引き起こします。特に船の船底に沿った水の流れは、速度が遅ければ層流、速くなれば乱流に変わります。船の速度が増すとレイノルズ数も大きくなり、乱流が支配的になります。
船体の摩擦抵抗も、飛行機と同じように摩擦抵抗係数を使って計算されます。以下の式で船の摩擦抵抗力を求めます

船体表面に働く力を計算する際は、船が移動する水の密度ρや、速度 v、船体の濡れ表面積 A が影響します。
飛行機や船の摩擦抵抗は、レイノルズ数と摩擦抵抗係数によって計算されます。流体の流れが層流か乱流かによって抵抗の大きさが異なり、移動体の速度や表面積に応じた最適な設計を行うために、この評価は非常に重要です。レイノルズ数を基に、摩擦抵抗を適切に評価することで、飛行機の燃費向上や船のエネルギー効率の改善が図られます。
まとめ
レイノルズ数は流体力学における重要な指標であり、日常生活から工業分野まで多くの場面で活用されています。その理解は、効率的なシステム設計や予測に欠かせません。日常の中でも、例えば水道の蛇口をひねるときの水の流れ方など、私たちは無意識にレイノルズ数の影響を受けています。今回は基礎的な部分しか触れてませんが、応用編も書いてみたいと思います。
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