化審法とは?日本の化学物質規制の詳細、登録、ビジネスでの活用

研究職

研究職として働く中で様々な分野にふれることになります。”聞いたことはあるけど理解できていない” ”なんのことかわかっていない”といったことを、勉強用としてブログにまとめていくことにしました。その内容を同じ境遇の人にも共有できたらと思います。

日本において化学物質の製造や輸出入を行う場合、化審法の遵守が必要です。私の会社の場合、専門部門が対応するため、自分で登録対応をすることはありませんが、専門部門とのやり取りをスムーズに行うためには、概要を理解する必要があると感じています。本記事では、化審法の基本概要登録義務規制対象物質、さらにリスク評価や企業が留意すべきポイントについてまとめています。



日本の化審法の概要と目的

化審法は、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の略称で、1973年に制定されました。人の健康および生態系の保護を目的に、環境に蓄積しやすい化学物質の製造や流通を制限しています。対象となる化学物質は、すべての新規化学物質および既存化学物質を含みます。

化審法では、化学物質をいくつかの区分に分類し、使用用途やリスクに応じて段階的な管理が行われています。主要区分についてまとめてみました。

区分該当例規制内容
第一種特定化学物質PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT(農薬)、ダイオキシン製造・輸入は原則禁止。
リスク評価済みの特定用途でのみ使用可。
第二種特定化学物質トリクロロエチレン、フタル酸エステル類製造・輸入の際、年間製造量の報告が必要。
特定用途以外での使用は制限。
優先評価化学物質新規化学物質、環境中で蓄積が懸念される既存物質事前にリスク評価が必要。
評価結果に基づき、将来的にさらに規制される可能性。
監視化学物質PFAS(パーフルオロアルキル化合物)製造・輸入の際に届出が必要。
特定の用途において管理および監視。


化審法の登録義務と対象物質

新規化学物質の登録

化審法では、年間1トン以上の化学物質を製造・輸入する場合、新規化学物質として登録が義務付けられています。また、製造・輸入量に応じて、データの収集や提出が必要です。

また、1トン以下の少量であっても使用する場合、物質の種類や使用目的によっては登録が必要になる場合があります。ただし、特定の要件を満たす少量の用途については、以下のような例外措置が認められています。例えば、研究開発目的の少量使用や1トン未満の新規化学物質に対する確認申請など、特定の用途や条件を満たせば簡略化された手続きや事前届出での使用が認められることもあります。

新規化学物質の登録には、以下の情報が求められます。

  • 化学物質の成分情報
  • 物理化学的特性(沸点、分子量など)
  • 毒性データ(急性毒性、皮膚感作性など)
  • 生態毒性(水生生物への影響など)


化審法の区分別 必要情報の違い

化審法の各区分によって、登録に必要な情報が異なります。区分ごとに求められるデータ量や試験項目が異なるため、以下に主要な区分別の必要情報をまとめます。

区分主な必要情報補足
第一種特定化学物質物質の基本情報(分子式、構造など)、物理化学的特性、詳細な毒性試験データ、分解性、環境中での残留性非常に厳格な規制があり、包括的なデータが必要です。人・環境への悪影響を詳細に評価するためです。
第二種特定化学物質物質の基本情報、主要な毒性データ(急性毒性、遺伝毒性、感作性)、環境残留性、用途情報人・環境への影響がやや低いため、第一種より簡略化されていますが、環境中での影響を評価する必要があります
優先評価化学物質物質の基本情報、物理化学的特性、急性毒性、使用量・用途情報、ばく露シナリオリスクが未知のため、用途情報に基づくリスク評価を行い、将来的な規制が判断されます。
監視化学物質物質の基本情報、使用量・用途、物理化学的特性使用状況の届出が主な目的のため、毒性データは省略されることがあります。

登録に必要な主要情報の概要

多くの場合求められる抑えておきたい情報がいくつかあります。

  • 物質の基本情報:すべての区分で必須となり、化学物質の特性を明確にするための分子量、化学構造、CAS番号が含まれます。
  • 物理化学的特性:沸点、融点、蒸気圧、溶解性など、環境中での挙動を予測するための情報であり、特に第一種特定化学物質で重視されます。
  • 毒性試験データ:第一種や第二種特定化学物質には詳細な毒性評価データ(急性毒性、遺伝毒性、感作性など)が必要ですが、監視化学物質では通常省略可能です。
  • 用途情報:すべての区分で必要であり、用途や使用量に応じたリスク管理が行われます。

各区分で必要とされる情報は、物質の環境および健康への影響レベルに応じて異なり、特に影響が大きいと見なされる物質には詳細なデータが求められます。逆に影響が小さいと考えられるようなもの、例えば安定で特定の分子量範囲内に収まるような、生態系や人体への影響が小さいとされるポリマーは、登録時に毒性データの一部が免除されることがあります(「高分子量ポリマーの免除規定」)。

既存化学物質の登録

既存の化学物質については、化学物質審査情報データベースにすでに登録されている場合、新規登録の義務はありません。しかし、既存化学物質が新たな用途で使用される際には、リスク評価や必要な試験が求められることがあります。



登録費用と期間:中小企業への影響

化審法に基づく登録費用は、試験データや対象物質の量によって変動します。日本の化学物質規制では、試験にかかるコストが企業にとって負担になるケースが多いので、中小企業は負担軽減措置を検討することができるようです。

下記表のように、審査期間も一定以上かかります。では、新規化学物質の登録手続きが完了するまで製造や使用ができないのでしょうか?

原則として、その化学物質の製造・使用は許可されません。これは、リスク評価を行わずに流通させると、予期せぬ健康や環境リスクが発生する恐れがあるためです。ただし、研究開発などの少量使用や限定的な用途については、場合によって例外的に扱われることもあるようです。

登録区分費用(概算)審査期間
新規化学物質登録50万〜200万円程度約6〜12ヶ月
既存化学物質の新用途登録10万〜50万円程度約3〜6ヶ月

実務における対応手順:化審法への登録準備

化審法に基づく登録とリスク管理は、以下の手順で行います。

  1. 物質の分類とラベル付けの確認
    • 化学物質の分類を確認し、GHSに基づいたラベル付けを行います。
  2. データ収集と試験実施
    • 物理化学的特性、健康影響、生態毒性データを収集し、試験を実施します。環境中での影響も考慮する必要があります。
  3. 届け出と申請
    • 化審法に基づく届け出を提出し、登録プロセスを進めます。
  4. 登録後の情報管理
    • 登録後も、新たな用途や製造量の変化があれば、追加の届け出が必要です。また、定期的なデータの更新やリスク評価の見直しを行います。

高分子フロースキームとは

業務上高分子ポリマーの化審法申請を行う方は多いのではないでしょうか?その際、用いるのが高分子フロースキームです。

化審法高分子フロースキームは、化審法において高分子化合物の安全性を簡易的に評価するために制定された試験です。分子量分布測定、安定性試験及び溶解性試験の3つで構成されており、生分解性及び濃縮性を簡易的に評価することができます。さらに、人健康影響及び生態毒性については、高分子化合物中の官能基及び水溶解性等により判断されます。

化審法における新規高分子化合物は、高分子化合物の通常届出申請のほかに、その分解性や分子量(例:1000以上)に基づいてリスクが低いと判断される場合、ポリマー例外規定が適用され、簡易な確認申請や免除対象となることがあります。一方、構造上の特性や分子量が要件を満たさない場合は、通常申請が必要です。このフロースキームにより、毒性が低いとされるポリマーの事務負担を軽減しつつ、化学物質の適切なリスク管理を可能にしています。

参照:https://www.scas.co.jp/services/regulatoryscience/application-japan/chemical-substances-japan/polymer-kashinho.html


まとめ

化審法は化学メーカーの研究職として働く人にとっては、必ず関わることとなる法律となります。私のように、深い知識が必要でないケースもあるかもしれませんが、仕事を優位に進めていくためには知っていて損はない知識だと思います。今回は簡単な概要についてのみまとめましたが、時間があればより実用的な部分について書いていけたらなと思います。

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