化学物質規制の徹底解説:REACH、TSCAの詳細、登録、ビジネスでの活用

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研究職として働く中で様々な分野にふれることになります。”聞いたことはあるけど理解できていない” ”なんのことかわかっていない”といったことを、勉強用としてブログにまとめていくことにしました。その内容を同じ境遇の人にも共有できたらと思います。

化学物質を扱うビジネスを行う際、世界各国の法規制を把握し、適切に対応することは非常に重要です。特にEUのREACH、米国のTSCAは、化学業界でグローバルな展開をするための基盤となります。研究開発でも、製品を輸出入したり登録したりというステップがあります。私の会社の場合、専門部門が対応するため、自分で登録対応をすることはありませんが、専門部門とのやり取りをスムーズに行うためには、概要を理解する必要があると感じています。


本記事では、REACHやTSCAの重要ポイントを徹底的に解説し、対応に必要な知識やステップについてご紹介します。


1. 世界の化学物質規制の概要と国ごとの違い

REACHやTSCAは、化学物質の管理において最も厳しい規制といわれています。これらは、化学物質が人や環境に与える影響を管理するための法律であり、国ごとに異なる基準が設定されています。

法規制対象物質登録要件主な特徴
REACHEU新規・既存化学物質年間1トン以上の物質は登録義務環境と人の健康保護が主目的
TSCA米国新規物質Premanufacture Notice(PMN)EPAによるリスク評価後に許可

欧州と米国では、登録の際に必要なデータや試験方法が異なり、特に毒性データの試験方法や記載内容において、国ごとの認証試験が推奨されています。


2. REACH:環境と健康の保護を重視する欧州の規制

REACHの基本概要

REACHはRegistration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicalsの略称で、2007年にEUで施行された化学物質の管理法です。REACHは、特に人や環境への影響を重視し、輸出入や製造に携わる企業にデータの提供やリスク評価を求めるため、包括的な情報の収集と分析が必要です。REACHでは、年間1トン以上の化学物質を製造、もしくはEU域内に輸入する企業は、ECHA(欧州化学機関)への登録が義務付けられています。特に、化学物質が以下の条件に該当する場合には、追加の手続きが必要です。

特定用途での制限:既定の用途で使用が制限されている物質

SVHC(Substance of Very High Concern):高懸念物質としてリスト化されている物質

制限物質リストに含まれる化学物質

REACHの登録手続きの流れ

  1. 対象物質の確認:ECHAリストで既存物質か確認し、年間製造・輸入量が1トン以上であれば登録が必要です。
  2. 共同登録(SIEF参加):同じ物質を扱う企業とデータを共有し、費用削減を図ります。
  3. 登録書類の準備:IUCLID形式で、物質の性質、毒性・生態毒性データ、使用方法などを記載します。
  4. 提出と審査:ECHAに書類を提出し、追加のデータが求められることもあります。承認後に登録番号が発行されます。
  5. 登録後の義務:情報更新や新たなリスクが判明した場合は、ECHAに報告が必要です。

登録データ要件の詳細

REACH登録には、化学物質の年間製造量に応じて、詳細なデータが求められます。以下は、最低限求められるデータ要件の例です。

データの種類必須データ例補足
物理化学的特性分子量、沸点、水溶性、蒸気圧安定性や揮発性、環境中での挙動も考慮する
健康影響(毒性)急性毒性、皮膚感作性、遺伝毒性ヒトに対する長期的な影響も評価が必要
環境影響(生態毒性)水生毒性、生物分解性、土壌への残留性生態系への拡散リスク評価を含むデータが要求される

3. TSCA:米国の化学物質リスク評価と管理

TSCAの基本概要

TSCA(Toxic Substances Control Act)は、1976年に米国で施行され、2016年に改訂されました。TSCAは新規化学物質に対して、**Premanufacture Notice(PMN)の提出を義務付けており、提出後はEPA(米国環境保護庁)**がリスク評価を行います。リスク評価の結果、EPAは必要に応じて追加の管理措置を指示します。

TSCAの登録手続きの流れ

  1. 物質の確認:対象物質が既存化学物質リスト(TSCAインベントリ)に掲載されているかを確認します。既存物質であれば追加登録の義務はありません。
  2. PMN提出: 新規物質については、Premanufacture Notice(PMN)を提出し、EPAによるリスク評価を受ける必要があります。
  3. LVE(Low Volume Exemption):新しい化学物質が年間10トン以下で製造または輸入される場合は、LVEを申請することで登録義務が免除される場合があります。

TSCAのデータ要件

必須データ内容備考
物理化学的特性分子量、蒸気圧、水溶性など使用方法や使用量に基づいて試験
毒性データ急性毒性、皮膚・眼刺激性リスク評価のため追加試験を行う
環境影響(生態毒性)水生生物に対する急性毒性水生環境への影響も考慮

4. 登録費用と手続き期間:予算計画のポイント

REACHとTSCAの登録費用比較

登録費用は、企業の規模や化学物質の種類、量に応じて異なります。REACHやTSCAの登録費用は以下のとおりです。

法規制登録費用(概算)審査期間
REACH10,000〜200,000ユーロ約3〜6ヶ月
TSCAPMN:16,000〜20,000米ドル、LVE:5,000〜7,000米ドル約3ヶ月(PMNの場合)

REACHの登録には特に費用が高額で、中小企業にとっては大きな負担となる可能性があります。そこで、中小企業には一定の費用割引が適用される場合があります。



6. まとめ

日本の多くの化学メーカーは海外にも展開しており、国内のみならず国外の法規制にも対応する必要がります。多くの場合は、専門部署やディーラー経由で事が進むため研究職の人が全てを理解する必要はないケースが多いのではないでしょうか。しかし、研究職の人がある程度理解し研究開発を進めていくことで、効率的な事業推進につながることも多いので、理解を深めて損はないのではないでしょうか。今回は簡単な部分についてまとめましたが、機会があればより実践的なことも調べてまとめたいと思います。

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